結論から言うと、人材不足時代に企業が生き残るための“採用ブランディング”とは、「求職者から選ばれる理由を言語化し、それを一貫したストーリーと体験として発信・体現すること」です。単におしゃれな採用サイトを作ることでも、SNSで雰囲気の良い投稿をすることでもなく、「自社らしさ」と「候補者が知りたい情報」を整理し、求職者目線で伝え切る戦略そのものを指します。
人材が余っていた時代は「募集を出せば応募が来る」採用でも何とかなりましたが、人材不足が常態化した今、「選ばれる会社」だけが採用を安定させ、定着率も高めています。本記事では、中小企業・医院・店舗が今日から取り組める採用ブランディングの考え方と手順、チェックリストまで具体的に解説します。
結論(要約)
まずは、本記事全体のポイントを先に整理しておきます。人材不足時代に成果を出す採用ブランディングには、次の7つの要素が欠かせません。
- ① 事業戦略とつながった「採用のゴール」を決める
- ② 自社の“らしさ”と求める人物像を言語化する
- ③ 求職者が知りたい情報を網羅した「採用ストーリー」を作る
- ④ Web・SNS・求人票を一貫したメッセージで統一する
- ⑤ 社員のリアルな声・事例をコンテンツ化する
- ⑥ 入社後体験(オンボーディング)まで含めて設計する
- ⑦ 効果検証と改善サイクルを回し続ける
採用ブランディングは「広報」だけの話ではなく、「経営・人事・現場」が連動して取り組むべき経営テーマです。この7つを揃えることで、応募数だけでなく“マッチする人材”からの応募が増え、離職率の低下にもつながります。
ミニ結論:採用ブランディングとは「選ばれる理由」を明確にし、採用~入社後まで一貫した体験として設計すること。その土台がないまま広告や媒体を増やしても効果は薄い。
なぜ今、採用ブランディングが必須なのか
まず、「なぜ今、採用ブランディングが必須なのか」を確認しておきましょう。人材不足は一時的な現象ではなく、構造的な課題になっています。
1. 中小企業の半数近くが「人材不足」と回答
中小企業庁の調査では、2022年時点で日本国籍人材の確保状況について「不足」と回答した中小企業は、新卒採用で32.1%、中途採用で46.9%と、「適正」と答えた割合を上回っています。IT・デジタル人材にいたっては、さらに不足感が高い状況です。
身近な例で言えば、「求人広告を出しても応募が来ない」「経験者は来てもすぐ辞めてしまう」といった声が、業種問わず日常茶飯事になっている状況です。
2. 採用できない企業ほど「定着率」も低い
2025年版中小企業白書では、「人材が不足している事業者ほど、採用した従業員の定着率が低い」ことが指摘されています。特に中小企業・小規模事業者では、現場の製造・サービス職を中心に人材不足が顕著で、定着率3割未満という企業も少なくありません。
つまり、「人が足りないから、とにかく採用したい」と焦るほどミスマッチ採用が増え、結果的にさらに人手不足が加速する“悪循環”に陥りやすい構図です。
3. 人手不足は経営リスクになりつつある
信用調査会社や商工会議所の調査でも、正社員不足を感じている企業は5割前後に達し、「人手不足が事業継続に支障をきたす」と答える企業も多数にのぼります。特に運輸・建設・サービス業では「不足している」との回答が8割前後に達するなど、人材確保が経営の最重要課題になっていることがわかります。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
この状況で「とりあえず求人媒体を増やす」「紹介会社に頼る」だけでは、採用コストだけが膨らみ、根本解決にはつながりません。
ミニ結論:人材不足は一時的な景気の問題ではなく、構造的な経営リスク。だからこそ“採用ブランディング”という長期視点の打ち手が必要になる。
引用:2025年版 中小企業白書 第2部第1章第4節 人材戦略|中小企業庁
具体的な解決策
1. 事業戦略とつながった「採用のゴール」を決める
採用ブランディングの出発点は、「何人採りたいか」ではなく「どんな事業戦略を実現するために、どんな人材が必要か」を決めることです。
- 3年後にどんな事業ポートフォリオになっていたいか
- そのために、どの部署に、どんなスキル・価値観の人が何人必要か
- 中途・新卒・アルバイト・業務委託など、雇用形態のポートフォリオはどうするか
例えば、地域密着のクリニックで「自費診療を伸ばしたい」なら、単に医療事務を増やすのではなく、「カウンセリングや提案が得意なスタッフ」を採る必要があります。このゴール設計がないと、“何となく良さそうな人”採用に終始し、採用ブランディングもぼやけてしまいます。
ミニ結論:採用ブランディングは「人を集める」前に「どんな人に来てほしいか」を事業戦略から逆算するところから始まる。
2. 自社の“らしさ”と求める人物像を言語化する
次に、「自社はどんな会社か」「どんな価値観を持った人と合うのか」を言語化します。ここを曖昧にしたまま採用活動をすると、ミスマッチが起きやすく、早期離職の原因になります。
おすすめは、経営者・現場リーダー・若手メンバーでワークショップを行い、次のような項目を棚卸しすることです。
- うちの会社に向いている人・向いていない人の特徴
- 過去に活躍している社員の共通点
- 会社として譲れない価値観(例:スピード重視・安全第一・顧客への誠実さ など)
- 働くうえでの「リアルな大変さ」は何か
例:外壁塗装会社で、「体力に自信があって、職人仕事が好きな人」が定着しやすい一方、「デスクワーク中心をイメージして応募した人」は早期離職する、という傾向が見えたケース。この気づきから、「現場仕事のリアル」を採用サイトや動画で正直に見せるようにした結果、応募数は少し減ったものの定着率が大きく改善しました。
ミニ結論:“らしさ”と“求める人物像”を言語化することで、「合う人だけに刺さるメッセージ」が作れるようになる。
3. 求職者が知りたい情報を網羅した「採用ストーリー」を作る
採用ブランディングでは、「どんな順番で、何を伝えるか」が非常に重要です。求職者は、次のような流れで情報を見ています。
- どんな会社か(事業内容・社会への貢献)
- どんな人たちが働いているか(雰囲気・価値観)
- どんな仕事をするのか(1日の流れ・役割)
- どんな成長ができるか(教育・キャリア)
- 条件面(給与・休み・福利厚生)
この流れを意識して、採用サイトやパンフレット、会社説明資料を「ストーリー」として再構成します。
例:介護事業所が、採用ページを「求人票ベタ貼り」から、「先輩インタビュー → 1日の働き方 → 教育体制 → キャリアパス → 募集要項」の順で構成し直したところ、「イメージが湧きやすい」と応募者の質が上がり、未経験からの定着も改善しました。
ミニ結論:バラバラな情報ではなく、“ストーリーとしての採用情報”を設計することで、応募前の不安を減らし、ミスマッチを防げる。
4. Web・SNS・求人票のメッセージを統一する
採用ブランディングがうまくいかない企業の多くは、媒体ごとにメッセージがバラバラです。
- 会社サイト:堅い・無難
- 求人媒体:条件だけ並んでいる
- SNS:日常の雰囲気は伝わるが、情報が点在
求職者はこれらをすべて見比べています。どこを見ても「同じメッセージ・同じ強み」が伝わる状態が理想です。
例えば、「地域密着」「未経験歓迎」「チームワーク」を打ち出したいなら、会社サイトのコピー、求人票の見出し、SNS投稿のハッシュタグ、どこを見ても同じキーワードが目に入るように設計します。
ミニ結論:採用ブランディングは“点”ではなく“面”で捉える。媒体を跨いでも一貫したメッセージがあるかが勝負。
5. 社員のリアルな声・事例をコンテンツ化する
採用における最大の説得材料は「リアルな社員の声」です。経営者のメッセージだけでは、「本当かな?」と疑われてしまいます。
具体的には、次のようなコンテンツを用意します。
- 社員インタビュー(入社理由・仕事のやりがい・大変な点)
- 入社1年目の1日密着記事や動画
- キャリアチェンジ事例(例:未経験→リーダーになったケース)
- 失敗談や挫折からの成長ストーリー
例:建設会社が、女性技術者のインタビュー記事を公開したところ、「女性でも活躍できるイメージが湧いた」と女性応募者が増え、現場の多様性向上にもつながりました。
ミニ結論:「リアルな声」は、どんなコピーよりも強い説得力を持つ。社員を主役にしたコンテンツが採用ブランディングの核になる。
6. 入社後体験(オンボーディング)まで含めて設計する
採用ブランディングは、内定承諾までではなく「入社後の体験」まで含めてこそ意味があります。入社後のギャップが大きいと、早期離職につながり、再び採用コストが発生してしまいます。
チェックしたいポイントは次の通りです。
- 初日の“ウェルカム体験”は設計されているか(挨拶・説明・歓迎ランチなど)
- 業務マニュアルや教育フローは整っているか
- メンターや相談役となる先輩は決まっているか
- 1ヶ月・3ヶ月・半年の振り返り面談があるか
例:物流会社がオンボーディングプログラムを整備した結果、入社半年以内の離職率が3割→1割に改善し、「辞めない会社」として口コミも広がりました。
ミニ結論:採用ブランディングの“最終アウトプット”は「定着率」。入社後の体験設計まで含めて採用戦略と考えることが重要。
7. 効果検証と改善サイクルを回す仕組みを作る
最後に、「採用ブランディングのPDCA」を回す仕組みを作ります。感覚ではなく、数字で判断できるようにしておきましょう。
最低限、次の指標は追いかけたいところです。
- 求人媒体ごとの応募数・面接数・採用数
- 採用決定者のチャネル(どこ経由で知ったか)
- 入社後1年以内の定着率
- 採用サイト・採用ページのアクセス数・滞在時間・離脱率
例:あるIT企業では、「自社採用サイト経由の応募は面接通過率・定着率が高い」ことが数字で判明し、求人媒体依存を減らして採用サイトのコンテンツ強化に投資をシフト。結果として、採用単価が下がり、質も向上しました。
ミニ結論:採用ブランディングは“打ちっぱなし”にしない。数字と現場の声を元に、毎年すこしずつアップデートしていく姿勢が重要。
引用:2023年版 小規模企業白書 第1部第1章第3節 雇用の動向|中小企業庁
成功事例・シミュレーション
事例①:地域密着の整骨院グループ(早期離職率の改善)
【Before】
・求人媒体に「未経験歓迎」「アットホーム」とだけ記載
・入社後の研修やフォローが属人的で、半年以内の離職率が40%
【取り組み】
・「痛みを抱えた人の生活を取り戻す」という理念を中心に採用コンセプトを再定義
・先輩スタッフインタビュー動画、1日の仕事の流れを採用サイトに掲載
・初年度1年間の研修カリキュラムを図解して提示
【After】
・応募数は大きく増えなかったものの、「理念に共感しました」と話す応募者が増加
・半年以内の離職率は40%→15%まで改善し、「教育コストの無駄」が大幅に減少
事例②:製造業(BtoB企業)のエンジニア採用
【Before】
・会社サイトの採用情報が「募集要項のPDFのみ」
・大手メーカーとの比較で「情報が少ない」「どんな技術があるか分からない」と学生に敬遠される
【取り組み】
・技術ブログ・開発ストーリーを立ち上げ、「どんな技術で社会の何を変えているか」を発信
・若手エンジニアの1日や、開発現場の写真・動画を公開
・説明会資料も「事業×技術×人」を軸にストーリー化
【After】
・技術系学生からのエントリー数が約2倍に増加
・内定辞退率も下がり、「ものづくりのやりがいがよく伝わった」との声が多数
事例③:訪問介護事業所(求人コストの削減)
【Before】
・求人媒体への出稿を増やすも応募が少なく、採用単価が高止まり
・口コミ採用はあるが、仕組みになっていない
【取り組み】
・「小規模だからこそのチーム感」「利用者一人ひとりに向き合える」という強みを言語化
・採用チラシと紹介カードを作成し、既存スタッフ経由の紹介を仕組み化
・紹介してくれた社員へのインセンティブ制度を導入
【After】
・1年後には採用の7割が社員紹介経由となり、求人媒体の出稿量を半分以下に削減
・紹介経由のスタッフは定着率も高く、「一緒に働きたい人」を集められるようになった
ミニ結論:規模や業種を問わず、「自社らしさの言語化」と「一貫した情報発信」「入社後体験の設計」の3点を押さえた企業ほど、採用と定着の両方で成果を出している。
注意点・失敗しないポイント
1. 「キラキラしすぎた採用広報」は逆効果
実際よりも格好良く見せようとして、「スタイリッシュな動画」「オシャレなコピー」だけが先行すると、入社後ギャップが大きくなり、早期離職につながります。大切なのは「良い面と大変な面の両方を正直に伝える」ことです。
2. 給与・労働条件の改善を“発信だけ”でごまかさない
採用ブランディングは、条件の悪さを“広報力でごまかす”ためのものではありません。最低限の業界水準や法令遵守、働き方の改善に取り組まない限り、いくら表現を工夫しても持続的な採用・定着は難しいです。
3. 現場を巻き込まず、人事・経営だけで完結させない
現場を知らないメッセージは、求職者にも既存社員にも響きません。インタビューの協力やコンテンツづくり、オンボーディングの設計など、現場メンバーを巻き込んだプロジェクトにすることが大切です。
4. 一度作って終わりにしない
採用市場も、自社のフェーズも変わっていきます。3年も同じメッセージのままでは、状況に合わなくなることも多いです。年に1回は採用メッセージやコンテンツを見直し、「今の会社」を反映させましょう。
ミニ結論:採用ブランディングの失敗パターンは「盛りすぎ」「現場不在」「やりっぱなし」。正直さと継続改善こそが長期的な信頼と採用力につながる。
まとめ
人材不足時代の“採用ブランディング”とは、「自社がどんな会社で、どんな人に来てほしいのか」を明確にし、それを採用ストーリー・コンテンツ・入社後体験として一貫して設計することです。単なる見た目のブランディングではなく、事業戦略・現場のリアル・定着率までを含めた“採用の仕組みづくり”こそが、中小企業が人材不足を乗り越える鍵になります。
「採用ブランディングを始めたいが、何から手を付ければ良いか分からない」「採用サイトや求人票を見直したい」という場合は、外部の専門家と一緒に整理するのが近道です。
集客・制作・SEOのことなら、まずはグッドラフへお気軽にご相談ください。
御社の事業戦略・人材課題を踏まえた採用ブランディング設計から、採用サイト・コンテンツ制作、運用改善まで一貫してサポートいたします。

